多読とは – こどもの英語学習に採用する理由

この記事は小中学生の英語学習における多読に焦点を当てていますが、その内容は全年齢層で有用です。

これは多読に関する記事ですが、明確にしておきたいポイントがあります。

まず最初に明確にしておきたいのは、学習方法が一面的に偏ることは効果的な学習につながらない、という点です。確かに多読は非常に高い学習効果をもたらしますが、それはあくまで通常の英語学習の一環、補完的なものと考えるべきです。言い換えれば、多読は英語学習の「一部分」を強化する効果的な手法であり、全体像においては他の要素もバランスよく養う必要があるのです。総合的なスキルセットを高めるためには、例えば文法書を使った学習、実際の会話練習、英語でのエッセイ作成など、多読以外の方法も同時に取り入れるべきです。このように多角的なアプローチを採ることで、英語力はより確実に、そして効率的に向上していくでしょう。

多読とは?

多読(Extensive Reading)とは何かについて、Colin Davisが1995年の論文”Extensive reading: an expensive extravagance?”で提供した定義は非常に説明的です。Davisによれば、多読プログラムは「通常の英語学習を補完する図書システムであり、十分な時間と良い環境を提供し、生徒たちが自分のレベルに適した本をできるだけ多く、成績や試験のプレッシャーを気にせずに楽しく読むことを目指しています。」

この定義からいくつかの重要な要点を抽出できます。まず、多読は通常の英語学習プログラムとは独立したものではなく、補完的な存在であることが強調されています。このようにすることで、多読は文法や単語学習、リスニングやスピーキングの練習といった他の教育手法と組み合わせることができ、全体的な言語習得を効果的に促進します。

次に、多読には「十分な時間」と「良い環境」が必要とされています。これは、多読が単なる量をこなすための手段ではなく、むしろ質的な読解を促すものであることを意味します。学習者は、自分自身のペースで、そして何よりも楽しみながら読むことができる環境が必要です。

さらに、多読は「成績を気にせずに」という部分も非常に重要です。多読の目的は、試験の点数を良くすることではなく、読む楽しさや読解力、語彙力を高めることにあります。この観点から、成績や試験によるプレッシャーが排除されることで、生徒は自由な心で多読に取り組むことができ、その結果として自然な形で英語力が向上するでしょう。

最後に、多読は「楽しく、自分のレベルに合った本を多く読む」という目標があります。これは同じく、多読が単に量を増やすだけでなく、質も大事にしているという点で非常に重要です。生徒自身が興味を持てるような、また自分のレベルに合った読み物を選ぶことで、学習のモチベーションが維持され、持続的な学習が可能になります。

多読と精読の違い

「多読」とは、文章を一文一文詳細に分析するのではなく、全体の大まかな内容を英語で直接理解する読み方です。この方法では、和訳や辞書を使わずに、自分にとって適切なレベルの本を読むことが推奨されています。また、多読の特徴として、自分の興味や楽しみを追求できるような読み物を選ぶことが重視されます。このようにして、英語という言語そのものを自然な形で楽しみ、吸収していくのです。

一方で「精読」とは、文を細かく分析して、その内容や構造、意味合いなどを深く理解する方法です。日本での英語教育では、日本語に訳して理解する形が一般的であり、このスタイルは綿密な読解力を養います。ただし、英語だけを用いて精読する方法も存在し、これは特に高度な英語スキルを目指す際に有用です。

多くの学校や塾では、時間とリソースの大半を精読、特に日本語訳に重点を置いた教育に割いています。その一方で、多読に割く時間や場が少ないのが現状です。しかし、実際には、精読と多読はそれぞれ異なる側面のスキルを高めるため、英語学習の効率を最大限に引き出すには両方をバランスよく取り入れることが理想的です。

多読の効果について言えば、まず第一に、読書の流暢性が高まります。流暢性を高めることで、多くの情報を短時間で吸収し、脳の活動を軽減することで、より効率的な学習が可能になります。次に、多読は語彙の拡充にも寄与します。多様な文脈で英語を見ることで、新しい単語や表現に自然と触れる機会が増えます。さらに、多読は英語を「使う楽しさ」を実感させ、学習意欲を刺激する重要な要素でもあります。

以上のような理由から、多読は英語学習プログラムに積極的に取り入れるべきです。精読によって得られる緻密な理解と多読による自然な言語習得は、一緒に行うことで、より効果的な英語学習が可能になります。

多読を採用する根拠をさらに詳しくみてみましょう。

多読コミュニティのイラスト

採用する根拠

多読で期待される効果とは?

  1. 読むスピードが上がる。読書の流暢性が高まる。
  2. 様々な文脈の中で英単語や表現に何回も出会うことにより語彙が増え、言葉を正しい文脈の中で使いこなせるようになる。
  3. レベルに合うから学習が続く。
  4. 読むことで書く力や会話にも良い影響が期待できる。
  5. 読書にポジティブな印象が芽生える。

ポイント2に関して、多読の主な目的は新しい単語や文法の学習ではない、という点は非常に重要です(参考:Nation P. 2015)。多読は基本的には楽しみながら多くのテキストを読むことで、読解力を向上させる手法です。そのため、新しい単語や文法要素を目的として学習するのは、通常の英語教育の一環であり、多読とは独立した活動と考えるべきです。

ただし、多読が新しい単語や文法学習の補完として非常に有用であることは確かです。多読を行うことで、生徒は過去に学んだ単語や文法に自然に触れる機会が増えます。このような繰り返しの接触は、単語や文法の理解を深め、長期記憶に定着させる助けとなります。

さらに、多読はコンテキストの中で単語や文法がどのように用いられるかを自然に学ぶ絶好の機会でもあります。通常の英語教育では、単語や文法は文脈から切り離された形で教えられることが多いですが、多読を通して、これらの要素が実際の文脈でどのように機能するのかを理解することができます。

したがって、多読は単語や文法学習を置き換えるものではありませんが、それらを強化し、実践的な形で活用する力を養う貴重な手段となりえます。

悪循環を防ぐ・断つ(参考:Nuttall 1996, Cunningham & Stanovich 1998)

日本語でも、読むスピードが遅いと感じる場合、その読書体験は退屈でさえあり、時には苦痛に感じられることがあります。このような状況が続くと、人は読むことを避けがちになり、その結果として読む量も自然と減ってしまいます。それが続くと、語彙力や読解力が向上するチャンスも失われます。一般的に、読むことは語彙や読解力、さらには思考力の向上に不可欠な活動であると広く認識されています。そのため、読む量が減少してしまうと、読書に対する抵抗感がさらに高まり、悪循環に陥ってしまうケースが多々あります。

この悪循環は特に子供たちの教育の文脈で顕著に見られる問題とも言えます。例えば、英語を第二言語として教える際に、教育者が難解な文を中心に教材として選んでしまうと、子供たちは英文に対して嫌悪感を持つ可能性が高まります。このような場合、子供たちは英語に対する興味や好奇心を失い、学習のモチベーションが低下してしまう危険性があります。

一方で、読むことが楽しいと感じられるような教材や環境が提供されれば、読書に対する態度は明らかに改善されるでしょう。そうなれば、良い循環が生まれ、学習意欲も高まります。これが、子供たちが自ら進んで学び、成長するための鍵となると言えるでしょう。

精読という方法で難易度の高いテキストを読むことが全くダメだというわけではありません。むしろ、そのような高度な読解活動も非常に価値があります。しかし、問題な点は、英語で読むことの楽しさやその重要性を実際に体験できる機会が教育プログラムに組み込まれていないという点です。したがって、精読だけでなく、多読も取り入れることで、英語学習におけるバランスを取る必要があります。多読によって、学習者は英語を自然な形で楽しみながら吸収でき、継続的な学習が可能になるでしょう。

英語に触れる量の重要性

多読を取り入れることで英語に触れる機会が格段に増加します。日本では英語の日常的な使用が限られているため、多読は英語に触れる「量」に対する有効な対策となり得ます(参考:Elley 1991, Renandya & Jacobs 2002, Beglar et al. 2012, Nation 2015 など他多数)。

徳島大学国際センターによると、中・上級レベル(英検準1級程度)に到達するには約2000時間の学習が必要とされています。この数字はネイティブレベルに到達するためにはさらに多くの時間が必要という事実を踏まえれば、学習の量と質のバランスがいかに重要かが分かります。これはあくまで目安であり、学習の質や個人差によって、必要な時間や量は異なるでしょう。それでも、多くの練習が必要であるという点は一般的には間違いありません。

2023年度には、日本の小学校・中学校で507時間、高校で最大500時間の英語授業が設けられています。この数値と2000時間の目安を比較すると、授業外での学習が1000時間以上必要とされます。さらに、学校での1000時間は10年間に分散されているため、断片的な学習になりがちです。このような状況で継続的な学習を保つことは重要ですが、日々の「量」も無視できません。特に海外留学を目指す学生にとっては、学習時間をより効率的に増やす必要があります。

この点で多読は極めて有用です。多読を通じて、生徒たちは楽しみながらも大量の英語テキストに触れることができ、読解力だけでなく語彙力や文法理解も自然と高まります。このようにして、多読は学習時間の効率を高め、英語力の向上を加速させる可能性を持っています。

多読を取り入れることで英語に触れる量がとても増えます。日本に住んでいる限り、多くの英語に触れることは難しいです。多読の導入することで英語学習の課題である量にも対応できます。(参考文献:Elley 1991, Renandya & Jacobs 2002, Beglar et al. 2012, Nation 2015 など他多数)。

参考データ

多読に関する研究や資料は多数存在しますが、この場で紹介するのは日本におけるデータです。

以下の図1は、豊田高専で実施された多読プログラムと、それを導入していない他の教育プログラムとの間で、TOEICスコアを学年ごとに比較したものです。このデータにより、豊田高専の生徒が他のプログラムの参加者よりも英語スキルが向上していることが明らかになります。この事例は、英語学習において、豊富なインプットと言語に触れる時間が重要であることを裏付けています。ただし、多くのインプットがあれば良いわけではありません。きちんとした指導とカリキュラムが不可欠です。

豊田高専 プログラム別平均TOEIC得点のデータ

多読 の データ

図1、参考:豊田高専

インプットの多い英語の多読学習を使用した結果:

  • 2015年度大学4年文学・語学系(英語専攻)のTOEIC全国平均得点が570点に対し、2011〜2015年度専攻科2年生(多読授業7年目)のTOEIC平均得点(外国人留学生と英語圏への留学経験者を除く30名の年度自己ベスト)は585点で大学4年生・英語専攻の全国平均得点を上回ってきました。
  • 約300万語以上読んだ学生は、TOEIC得点が英語圏への留学経験者に匹敵するぐらいの学習成果が出ました。

また、日本の大学一年生76名を対象とした調査(参考:Bangler and Hunt 2014)によれば、年間で万語以上を読破した学生群が最も成績向上を示しました。さらに、簡単なレベルの本を選んで読んだ学生は、より高度な本を多読した学生よりも、読解速度の向上が顕著でした。

多読は良いアイデア イラスト

多読のやり方 – 効果的に多読を行うポイント

容易なものを読む―理解度と選択の重要性

容易な本とは、個々の読者が独力で辞書を参照することなく内容を理解できるものを指します。学習理論家HuとNation(2000)は、学習者が選ぶべき本は、その中の単語の98%を理解できるものだと提案しています。単語理解度が90〜97%の場合は、これを「Instructional Level(指導レベル)」と呼びます。このレベルでは、未知の単語が多く、読者はチャレンジを感じるでしょう。この際、専門家の指導や辞書が役立ちます。このレベルは精読には適していますが、多読には不向きです。

また、単語の理解度が90%未満の場合を「Frustration Level(挫折レベル)」と称します。このレベルでは、未知の単語が多すぎて、読む時間よりも辞書を引く時間が多くなり、結果として内容理解が妨げられ、読者がイライラする可能性が高いです。このレベルの読書は多読にも精読にも不適切なので、避けるべきです。

人それぞれに適切なレベルがありますので、自分が容易に、かつ楽しく読める本を選ぶことが重要です。難しい単語や表現に出会った場合、読み進めることが重要です。その単語の意味を推測し、後で確認するなどの方法もあります。何か新しい単語やフレーズが気になる場面でも、それをメモに取っておき、読書が終わった後に調べるといった手法が効果的です。

多読の際には、過度な集中よりも心地よい程度の集中状態が望ましいです。そのため、リラックスできる静かな環境で、選んだ容易な本や絵本を手にとり、多読を楽しんでください。これにより、多読の効果が最大限に高まり、英語学習においても大きな成果を上げることが可能です。

読みたい本を読む―選択の自由と学習効果

自分自身で興味や好みに基づいて本を選ぶことは、多読において特に重要な要素です。なぜなら、この選択自体が内発的な動機付けを高め、読書をより楽しいものにするからです。教養や趣味に対する興味を深めるために本を読むと、自然と読書の価値や喜びを感じられるようになります。

特に教室や学習塾で英語を学んでいる場合、多読を「宿題」としてではなく、「自分自身の趣味や興味」として捉えると、その効果は飛躍的に向上します。この視点から多読に取り組むことで、自然とモチベーションも高まり、学習効果が最大化される可能性があります。

また、ある本を一度手に取ったからといって、その本を最後まで読む義務はありません。読み進めていく中で「この本は面白くない」または「難易度が高すぎる」と感じた場合は、迷わずその本を置いて別の選択肢に切り替えましょう。多読の目的はあくまで、自分が楽しみながら多量の英語に触れることです。このプロセスにおいては、英語の書籍に限らず、雑誌や漫画、オンライン記事なども有効なリソースです。

読めるだけ読む―持続性と量のバランスが鍵

多読(Extensive Reading)は、その名の通り「たくさん読む」ことが目的ですが、その方法には注意が必要です。多読において無理に多くを読もうとすると、逆にストレスが溜まり、継続が困難になることもあるでしょう。そのため、多読は短期間で大量にこなすのではなく、長期に渡って無理なく続けることが理想です。

多読に割く時間も過度なプレッシャーを感じることなく、毎日10分から20分の短い時間を設定するだけでも効果があります。例えば、週に5日、1分あたり100語の速さで読む場合、一日15分の読書で6〜7ヶ月で約20万語を読むことができます。対照的に、英語が母国語の大人は1分に200から300語を読むことが一般的です。

その一方で、多読に没頭したいという人は、もちろんその時間を増やしても問題ありません。時間を多く割ける人は、それだけ多くの単語や表現に触れる機会が増え、更なる学習効果が期待できます。さらに、多読の継続によって自然と読むスピードも上がり、一定の時間で読める量が増えるでしょう。例えば、最初の年には1分あたり100語程度であった読むスピードが、次の年には150語以上になる可能性もあります。

このように、多読には「量」だけでなく「質」と「継続」が重要です。そしてその質を高めるためには、無理なく、でも継続的に取り組むことが最も重要なのです。

多読を効果的に行うための前準備:英語の基礎能力の習得

多読(Extensive Reading)を始める前に、まずは基本的な英語を読む力を身につけることが重要です。具体的には、英語の音と綴りの関係を理解することが基本的なスキルとなります(参照:Rayner et al. 2001)。このステップを省略すると、多読の効率が大きく下がる可能性があります。

この音と綴りの関係を効果的に学ぶ手法として、フォニックス(音声言語の構造を学ぶ教育法)が推奨されます。この学習方法は必須ではありませんが、特に子どもたちに対しては非常に効率的な方法であると多くの研究で示されています(Rayner et al. 2002、Ehri et al. 2001)。

さらに、多読を始める前には最低限の語彙と文法の知識も必要です。しかし、それがなくても、基本的な英語の絵本から始めることで、未知の単語や文法に触れる機会が得られ、少しずつ理解が深まっていきます。

こういった前準備が整った上で多読に取り組むことで、読む速度だけでなく、理解力や語彙力も効率よく高まるでしょう。つまり、多読は単なる「量」の問題ではなく、「質」を高めるための前準備も非常に重要です。

続けて読む: 英語学習においてのカタカナとローマ字の弊害について。

参考文献

  • Beglar, D., Hunt, A., & Kite, Y. (2012). The effect of pleasure reading on Japanese university EFL learners’ reading rates. Language Learning, 62(3), 665-703.
  • Beglar, David, and Alan Hunt. “Pleasure Reading and Reading Rate Gains.” Reading in a foreign language 26.1 (2014): 29-48. https://files.eric.ed.gov/fulltext/EJ1031315.pdf
  • Cunningham, A. E., & Stanovich, K. E. (1998). What reading does for the mind. American Educator, 22(1-2), 8-15.
  • Davis, C. (1995). Extensive reading: an expensive extravagance?. ELT journal, 49(4), 329-336.
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  • Elley, W. B. (1991). Acquiring literacy in a second language: The effect of book‐based programs. Language learning, 41(3), 375-411.
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  • Nation, P. (2015). Principles Guiding Vocabulary Learning through Extensive Reading. Reading in a Foreign Language, 27(1), 136-145.
  • Nuttall, C. (1996). Teaching reading skills in a foreign language (2nd ed.). Oxford: Heinemann.
  • Rayner, K., Foorman, B. R., Perfetti, C. A., Pesetsky, D., & Seidenberg, M. S. (2001). How psychological science informs the teaching of reading. Psychological science in the public interest, 2(2), 31-74.
  • Rayner, K., Foorman, B. R., Perfetti, C. A., Pesetsky, D., & Seidenberg, M. S. (2002). How should reading be taught?. Scientific American, 286(3), 84-91.
  • Renandya, W. A., & Jacobs, G. M. (2002). Extensive reading: Why aren’t we all doing it. Methodology in language teaching: An anthology of current practice, 295-302.

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